目次
日本酒業界の現状、および歴史(戦後)について
新型コロナウィルスの感染拡大による影響は、日本酒業界にも及んだ。2020年4月に発令された緊急事態宣言により、飲食店は営業自粛を余儀なくされた。
その結果、業務用酒類の出荷が大きく落ち込み、2020年に多くの酒類の卸売業者が廃業した。
また、日本酒の出荷量は1973年度の177万klをピークに2020年度には4分の1以下の41万klまで減少した。そのため、中小零細規模の日本酒蔵の中には、業績悪化のため、休業、廃業をするところが増えている。日本酒業界の歴史(戦後)の概要を日本国内、海外ごとにまとめたものが、下記の表である。
地理的表示制度
同制度は、お酒の産地や品質を保証するものであり、日本では1997年から導入されている。
消費者のメリットとしては、以下の点を挙げることができる。
・地理的表示があることで、特産品であると認識しやすい。
・原材料などを偽装しにくくなり、商品を信頼することができる。
・国が「地理的表示」の明確な基準を示しているため、その基準に則った、安心な商品を買うことができる。
清酒(日本酒)の地理的表示
「和食」のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)
日本人は、四季のはっきりした変化や地理的な多様性を背景として、豊かな食材をもたらす自然を敬い、また、共に生きていく中で、独自の食文化である「和食」を育んできた。
ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」である。
日本酒蔵の売上高ランキング(2021‐2022年)
日本酒蔵の売上高ランキング(1位~10位)は、以下の通りである。
売上高ランキング | (億円) | ||
順位 | 会社名 | 主要銘柄 | 売上高 |
1位 | 白鶴酒造 | 白鶴 | 273 |
2位 | 月桂冠 | 月桂冠 | 172 |
3位 | 旭酒造 | 獺祭 | 164 |
4位 | 日本盛 | 日本盛 | 110 |
5位 | 大関(2020年3月期、推定値) | 大関 | 130 |
6位 | 宝ホールディングス | 松竹梅 | 128 |
7位 | 小山本家酒造 | 金紋世界鷹 | 124 |
8位 | 加藤吉平商店(2021年6月期) | 梵 | 97 |
9位 | 黄桜(2021年9月期) | 黄桜 | 95 |
10位 | 朝日酒(2021年9月期) | 久保田 | 68 |
出所:各種資料より作成
日本酒蔵のM&A
過去の日本酒蔵のM&A(一部)
年度 | 買い手 |
対象企業・事業 |
2017 | 盛田 | 千代菊(岐阜)を子会社化 |
2017 | ドリームリンク | かづの銘酒(秋田)を子会社化 |
2017 | オリエンタルコンサルタンツ | 瀬戸酒造店(神奈川)を子会社化 |
2018 | 友桝ホールディングス | ハクレイ酒造(京都)を子会社化 |
2020 | JPH(PEファンド) | 小堀酒造店(石川)へ出資 |
2020 | シマダグループ | 吉川醸造(神奈川)を子会社化 |
2021 | リオンドール・コーポレーション | 菊川酒造(福島)へ出資 |
2021 | くじらキャピタル | 金井酒造店(神奈川)の事業譲り受け(吸収分割) |
出所:各種開示資料より作成 |
日本酒業界の今後について
海外輸出の促進
「和食」のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)により、海外でSAKEブームとなり、特に高級日本酒のニーズが高まった。2020年度の日本酒の輸出総額は約241億円(昨対比103.1%)となり、コロナ禍においても11年連続で過去最高記録を達成 した。数量では、前年比87.3%となり、海外のトレンドが、量よりも質を求める傾向にあることが分かる。
国別(金額ベース)では、第1位は香港、以下、中国、アメリカの順番である。なお、数量ベースでは、アメリカが第1位である。
商品の差別化・高付加価値を付ける
日本酒蔵には老舗が多く、100年または200年以上の歴史がある蔵も多くあり、長い伝統があるために変化を拒否する傾向がある。一方、若い世代の経営者は、低アルコール度数の日本酒、スパークリング日本酒などの商品ラインナップの拡充、酒瓶のお洒落なラベルを取り入れている。これによって、今まで日本酒を飲まなかった顧客層、女性、若者などの取り込みを図っている。
日本酒イベントの開催、日本酒資格
コロナ禍の影響で大規模なイベント開催が自粛されていたが、昨年後半から徐々に開催されるようになった。
日本酒のイベントも各地で開催され、日本酒の蔵元が出店し、来場客に日本酒を試飲してもらい、相性料理とのペアリングを提案する機会も増えている。また、民間の日本酒資格も複数存在し、日本酒業界の従事者(生産者、卸小売業者)、一般の愛好家のなかで資格取得者が増えている。生産者、販売者、消費者が日本酒の知識を習得することにより、日本酒市場の裾野が広がると期待される。