目次
Ⅰ LPガス業界の動向
市場規模の縮小
日本LPガス協会の調査によると、2016年(平成28年)のLPガスの総供給量は約1,396万tであり、2006年(平成18年)の1,814万tと比べると約23%減少している。また総需要量も同様に減少しており、2006年には約1,817万tであった総需要量が、2016年には約1,430万tに減少した。
この理由としては、エネルギー市場の競合である都市ガス市場やオール電化市場の拡大を挙げることができる。2017年(平成29年)の都市ガス販売量は、2007年(平成19年)と比較して約10%増加し、オール電化住宅も毎年増加しており、2025年には1,000万戸超になると予測されている。
また、2016年の電力の小売自由化、2017年の都市ガスの小売自由化により、消費者が自由にエネルギーを選択できるようになった。その結果、新たな顧客獲得のためエネルギー業者間での競争が激化している。
販売事業者数の減少
他のエネルギー業者との競争激化による収益性の悪化、後継者不足などを要因として、LPガス販売事業者数自体も減少傾向が続いている。2017年の販売事業者数は約1万9,000事業所であり、ピーク時(1968年)から約60%も減少している。
人口減少によるLPガスの需要低下や人手不足、更に電力自由化でガス・電気をセットで販売できるようになり、同業他社に加えて電力会社のような異業種他社も競争相手となっている。今後はより市場が縮小すると共に、事業所数もさらに減少すると見込まれる。
Ⅱ LPガス業界の販売量ランキング
LPガス業界の販売量ランキング(1位~10位)は、以下の通りである。
販売量ランキング | (t) | LPガス主要仕入先 | |
順位 | 会社名 | 販売量 | 会社名 |
1位 | 岩谷産業(8088) | 1,376,000 | 中東・ENEOSグローブ・コスモ |
2位 | エネサンスホールディングス | 635,000 | 昭和シェル・ENEOSグローブ・アストモス・EMG |
3位 | 日本瓦斯(8174) | 620,000 | ― |
4位 | 伊藤忠エネクス(8133) | 569,000 | JGE・ENEOSグローブ・昭和シェル |
5位 | 東邦液化ガス(東邦ガス(9533)の子会社) | 423,101 | コスモ・アストモス・ENEOSグローブ |
6位 | 全国農業協同組合連合会 | 410,000 | アストモス・ENEOSグローブ・岩谷・EMG |
7位 | 大陽日酸(日本酸素ホールディングス(4091)の子会社) | 400,000 | アストモス・エネサンス |
8位 | ミツウロコグループホールディングス(8131) | 382,000 | EMG・ENEOSグローブ |
9位 | シナネンホールディングス(8132) | 343,773 | コスモス・アストモス |
10位 | 株式会社サイサン(未上場) | 335,000 | JGE・ENEOSグローブ・EMG |
出所:一般社団法人 全国LPガス協会
Ⅲ LPガス業界のM&A
過去のLPガス業界のM&A(一部)
発表月 | 買い手 | 対象企業 |
発表月 | 買い手 | 対象企業・事業 |
2019 | 西部ガス株式会社(未上場) | 吉川工務店(福岡県:マンション、福祉施設、事務所の施工)を子会社化 |
2019 | 東邦ガス(9533) | ヤマサホールディングス傘下のLPガス事業子会社の経営統括を行っている株式会社ヤマサの全株式を取得 |
2019 | カメイ(8037) | 最上ガス株式会社(山形県:LPガス小売業)の全株式を取得 |
2019 | 静岡ガス(9543) | 連結子会社の中遠ガスを完全子会社化 |
2019 | 東海ガス(TOKAIホールディングス(3167)の子会社) | 群馬県甘楽郡下仁田町の町営ガス事業を譲受 |
2019 | 東海ガス(TOKAIホールディングス(3167)の子会社) | 秋田県にかほ市のガス事業譲受、にかほガス株式会社を設立 |
2019 | TOKAI(TOKAIホールディングス(3167)の子会社) | 中央電機工事(愛知県:電気工事業)を子会社化(建設事業の拡大) |
2021 | 大丸エナウィン株式会社 | 株式会社太陽プロパン(福井県、LPG販売)を子会社化 |
2022 | Misumi(7441) | 株式会社石井商店(宮崎県:LPG販売9を子会社化 |
出所:各種開示資料より作成
中小規模の運送会社は、30~40年前に設立された会社が多く、経営者が高齢化して後継者問題を抱えている。そのため、経営承継の解決策の一つとして、M&Aの手法が利用されている。
Ⅳ LPガス業界の課題および今後について
LPガス業界の抱える課題としては、「後継者不足」、「人材不足」、「市場規模の縮小、競争が激化する市場における生き残り」の3点を挙げることができる。
譲渡企業にとっては、経営者の高齢化が進み、次の世代への事業承継の問題が顕在化している。また、従業員も高齢化が進んでおり、ガスの配送ドライバーや点検員等の人手不足も課題である。
譲受企業にとっては、都市ガスや電力会社との競合激化や縮小する市場の中で、売上を維持・拡大する必要がある。
M&Aは、このような譲渡企業と譲受企業双方の課題を解決する手法として有効である。また、LPガス業界内のM&Aのみならず、異業種の企業を買収することで事業の多角化を目指すM&Aも見られる。