『M&Aの流儀』~M&A後の会社の関わり方~最終話

『M&Aの流儀』~M&A後の会社の関わり方~最終話

創業者が会社を売却する場合の思い入れは、当事者がその時にならないとわからないです。

「全然未練なんてありませんよ」と言っていた人がいざとなった時に「私の生き甲斐だった! 死ぬまで続けるから売却はやめる」と言い出したり、

逆に「売ったら寂しいだろうなあ」と言っていた人が、売却代金が着金したその日からもう全部放ったらかしていなくなってしまうようなこともあります。

 

途中から会社を引き継ぐということは誰がどうやっても難しいものです。

買い手とすると売り手が残って一緒に手伝いたいという意向を示した時には、そんなに悪い選択肢ではないと捉えます。

ところが著者の感覚としては、以前から知った仲であったり、友人としての関係ができてでもいない限りは、創業者と次のオーナーが一緒にやっていくということは凄く難しいと捉えています。

期間をあらかじめ切っておいて、「それまで、もしくは、それ以前までに引継ぎを終えていなくなる」と創業者と約束するケースはまだマシです。

しかし「当面の間」といって期間を曖昧にしている場合はこじれてしまうケースが多々あります。

例えば、既存のお客さんのフォローは旧オーナーで、新しいお客さんについては新オーナーで側でとか、商品企画は旧オーナーで、営業などそれ以外の機能は新オーナー側でとか分けたとしても、特にこじれるリスクは特に変わりません。

創業者は指示命令は得意だが協働は苦手

売却してもオペレーションを継続させる際の意図としては、「もう歳を取ったので一線引きたい」「会社や社員のことは好きで、心配だからサポートはしたい」というなどの純粋な気持ちから、「売却後も、多くなくてもいいから継続収入は確保しておきたい」などお金のことなど様々です。

気持ちもわかりますし、買う側にとっても自分たちが買った後にいきなり会社がおかしくなっても困るので歓迎したりもします。

 

著者の経験則で言えば、M&A後も継続して一緒にやっていきましょうというケースでうまく会社が進んでいった例を見たことがありません。

売り手があまり会社に思い入れも強くない2代目や3代目で相続したオーナー社長だった場合では、「何もしない」でいることで結果的に新オーナーのもとで円滑に事業が営まれていることはあります。

しかし創業者であったり、事業を大きく伸ばした2代目などのケースでは、年がら年中新しいオーナーと内輪モメをしていたり、それによって業績も落ちて行ってしまっていったりします。

 

理由は想像できるかもしれませんが、自分で事業を進めてきた自負があればあるほど、黙っていられないのです。

「たしかに会社は売却したのでオーナーでもないけど、心配だからアドバイスしているだけだ」という美名のもと、ついつい新しいオーナー体制が何か自分の知らないことをやろうとすることに対して、意見したくなってきてしまいます。

本コラムを読んでいるオーナーのかたは「そうかな? 約束したことは守るけどなあ。自分は違う」と思うかもしれません。

しかし、何の気なしにコメントしたりしてても知らず知らずのうちに口調がきつくなったりして、相手にとっては「反対している」と捉えてしまうものです。

子離れできない親と同じ状態と言えましょう。

上下関係をはっきりさせ、それが嫌なら売却しない

本当に難しい問題だと思います。

「愛着もあるし、社員のことを考えても発展していって欲しい」と願う売り手と、

買い手の「リスクなく引継ぎたいし、それまでに得たノウハウやヒントは共有して欲しい」というニーズはぴったり一致しています。

 

ですが、身内の人間の言うことに耳を傾けるということを長らくしてこなかったオーナー社長に、

「いきなり従業員と同じような立場になって新しい体制の言うことを聞きなさい」と言うのは、

悪意はなくても体の条件反射が受け入れられないでしょうし、残った社員にとっても扱いにくいでしょう。

 

それではと言って共同代表や、会長と社長や、社長と副社長といって並走する幹部のようになったとしても、並走するということ自体が実際にどんな所作をすればいいのかもっと想像もできないです。

 

役割を明文化しても同じことです。

 

例えば、海外展開に可能性があるから強い海外販路を持っているところと一緒にやっていくというような、事業承継ではなくて純粋な資本提携にしても、持ち分を50-50で並走してということではなく、どちらかが大株主になって役割を明確にしておいた方がいいでしょう。

いざ価値観などで議論が分かれた際に、最終的には大株主側が責任もって決めるということがわかっていればモメることは減るでしょう。

 

著者も創業者が残って一緒にやっていくというケースの成功法則というのがまだ見出せていません。

しかし、いっそのこと売り手は「売却した後にも要請されれば手伝いますが、ボランティアでやります」といってお金の関係は切っておくのもいいのかと思います。

下手に報酬や株式の一部持ち合いなどしてからむから義務が発生し、義務の解釈の相違が関係をこじらせる温床になります。

当然買い手としてはボランティアですとそのままフェードアウトされるリスクがあるために慎重になりますが、その覚悟が持てる買い手を探すということです。

 

売り手・旧オーナーは、売却してまとまったお金をもらった以上は新しいオーナーに感謝を抱くよう意識を高める必要はあります。

さらには、「せっかく育てた会社と縁が切れるのは寂しい」「世代交代して発展していく姿を見届けるだけでなくて一緒に味わいたい」というのであれば、

売却を希望するのではなく、疲れきるまで事業を続けていって、「寂しいけどもう限界だろう」というフェーズになってきれいさっぱり売却する道がいいのかもしれません。

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執筆
中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント 経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営 東京大学大学院工学系研究科修了 著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

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